住まいを貸す契約の流れ
住宅を貸す場合には、通常は入居者付けや入居者管理を不動産会社に依頼することになります。
その際に知っておくべき手続き、ポイントを紹介します。
1.物件概要を確認する
既存物件について、次のような「お悩み」をお持ちの場合は、不動産会社に管理を委託したほうが良いでしょう。
・「空室が多くて困っている」
・「安心できる入居者に貸したい」
・「家賃滞納や不良テナントに備えたい」
家主様から依頼を受けた不動産会社は、物件の所在地・規模・種類・構造・築年数・間取タイプ・駐車場の有無、賃料相場、物件の需要者(入居者)層などを調査します。その上で、家主様にとって最適な賃貸住宅経営が運営できるように手助けしてくれます。
また、管理を委託する不動産会社を選ぶ際は、国土交通省告示による任意の賃貸住宅管理業者登録制度の登録を受けている会社であるかを事前に確認してみるのもよいかもしれません。
登録を受けている会社であれば、一定のルールに沿った管理(管理委託契約前の重要事項説明や受領家賃の財産の分別管理等)を行っていますので、安全・安心な管理が期待できます。
登録を受けているかどうかは、国土交通省のホームページで確認できます。
2.物件概要を確認する
不動産会社は、現地に赴き、
・物件の内外部
・付属施設
・周辺の公共施設や環境
・交通機関
・周辺の類似物件の賃貸条件
などを調査・確認します。
調査結果から、不動産会社は間取り・設備・外装などのリフォーム提案や賃料改定のアドバイスなどを行うこともあります。
また、登記事項証明書等で所有権以外の権利関係の有無を確認します。
不明点等がある場合は、不動産会社から家主様に対して問合せがあるケースもあります。
3.物件概要を確認する
適正家賃の算出方法には、いくつかの方法がありますが、主として「積算」・「比較」という二つの方法が用いられるのが一般的だと言えるでしょう。
「積算」による方法は、土地の購入資金や賃貸住宅の建設資金など、賃貸住宅建設に必要な費用を積み上げ、そこから月額家賃を算出する方法です。
{(土地+建設費)+(借入金額+金利)+ 貸主の利益 }÷ 償却期間=月額家賃
「比較」による方法は、対象物件の周辺に所在する類似した物件の家賃をいくつか調査した上で、それを立地、築後経過年数、間取タイプ、設備、仕様などから修正し、月額家賃を算出します。
「積算」によって賃料を算出しても、その賃料が相場とかけ離れていては入居者が集まりませんから、最終的には「比較」による方法で市場性をチェックする必要があります。
その他にも専門的な適正家賃の算出方法がありますが、最も重視されるのは競合物件との市場性となりますので、「比較」による方法を主として用い、参考的に「積算」による方法で検証すると良いのではないでしょうか。
また、不動産には一つとして同じものが存在しない「個別性」という特徴があります。
そのため適正家賃の設定には、その物件が持つ固有の要素や相場などを加味することが必要不可欠です。
そうした情報に詳しい地元の不動産会社に賃料の査定を依頼するのが、一番よい方法でしょう。
4.入居者募集要項を設定する
不動産会社に入居者付けを依頼するには、物件概要を把握した上で「入居者募集要項」について不動産会社と打ち合わせをする必要があります。
募集条件によって、対象物件の競争力を上げることもできれば、競争力を下げてしまうこともあり得ます。
例えば、入居者の条件について、
・「学生限定」にしますと、「連帯保証人(親御さん)つけるため稼働率がよい」という効果があります。
・「女性限定」にしますと、一般的に「きれいに室内を使ってくれ夜騒いだりしない」というメリットがあります。
しかし、これは一般的な効果にすぎず、中には家賃滞納する学生入居者もいれば、室内を汚く使う女性の方もいらっしゃいます。なにより、入居者募集という入口で需要者(入居者)層を限定してしまうというデメリットもあるので注意が必要です。
一方で、入居者募集の条件について、
・「ペット飼育可」にしますと、供給物件数が少ないので競争力は高くなります。
・「楽器演奏可」についても同様です。
ただし、「部屋が汚れる」・「物件の傷みが激しい」・「鳴き声やにおいが迷惑」・近隣との騒音トラブルなどの可能性もありますので、慎重な検討が必要です。
さらには、入居時の一時金の設定で競争力を高める方法もあります。
例えば、
・「フリーレント」:当初一定期間の家賃をなしとする契約
・月々の家賃を少し上乗せして「礼金ゼロ、敷金ゼロ」とする契約
などは、一定の効果が見込め、賃貸市場でも度々目にする機会が増加しています。
ただし、敷金は入居者の退去後の原状回復費用や滞納家賃の担保といった性格を持っているので、なかなか軽減しにくいものです。
対象物件の周辺における入居者募集条件の動向を確認し、市場(マーケット)を意識した「入居者募集要項」を設定することが肝要です。
5.契約条件(普通借家か定期借家か)を設定する
賃貸条件について、普通借家契約にするのか定期借家契約にするのかを決めることも必要です。
1.「普通借家契約」
最も一般的な借家契約の形態です。
ただし、契約期間(一般的に2年)を設定しても入居者から更新を求められると、家主側は更新に応じる必要があります。
過去の裁判例などによると、下記のような事項を総合的に勘案して正当事由が認めらる場合にのみ更新拒絶が認められます。
・家主自らがそこに住むといった事情
・賃貸借に関する従前の経過や事情
・建物の利用状況
・家主側から入居者に対する立退き料の支払い
2.定期借家契約
契約で定めた賃貸借期間の満了により、当然に賃貸借契約が終了します。
ですから、普通借家契約のように家主に正当事由がなくても賃貸借期間の満了で契約が終了し、建物を明け渡してもらうことができます。
ただし、定期借家契約とするためには、借地借家法に定める要件をすべて満たす必要がありますので、不動産会社にアドバイスを求める方がよいでしょう。
入居者側から見れば、普通借家契約よりも不利な契約になりますから、一般的に定期借家の賃料は安めになり、礼金などの一時金を授受する理由も希薄になるため、収入が減少するケースもあります。
別表に両者の特徴をまとめておきます。
6.入居者募集広告の費用負担について
不動産会社によっては、広告を出稿することに対して費用を負担してほしい旨の提案をしてくることがあります。
これに納得した上で広告活動を行った場合には、もちろん、その費用負担をすることになります。
事前に広告内容について不動産会社と協議し、事後にその広告についての明細を不動産会社から受け取るようにしましょう。
7.物件ごとに入居者基準を設ける
物件のグレードや間取タイプ、立地条件、環境、物件の既存入居者の特徴などにより、どのような層に適しているのか、入居者層を限定した方がよいのかといった基準が生じてきます。
この基準をできるだけ明確にすることで、入居希望者が基準に適しているかを判断でき、審査がより的確に行えます。
8.入居者の資格要件の確認
これには三つのポイントがあります。 一つめが
(1) 「転居の理由」
転居動機を確認することにより、以前の居住状態や共同住宅で生活していけるかどうかの判断ができます。
(2) 「身元および人柄などの確認」
入居申込書に記載された内容から推測・確認します。
調査・確認には、住民票での確認や勤務先に照会するなどの方法があります。
ただし、こうした確認は事前に不動産会社から入居希望者にその旨を説明してもらった上で行う配慮が必要です。
連帯保証人の身元確認も同様です。
(3) 「収入面の確認」
会社員の場合、源泉徴収票により確認することに通常です。
自営業やフリーランスの人の場合、納税証明書により収入実績を確認することになります。
なお、月額収入の30%を超える家賃を支払っている入居者には、滞納が多いというデータもありますので注意が必要です。
不動産会社に管理を委託していますと、上記のような入居者の情報が不動産会社から報告されることになります。
9.入居者に用意してもらう書類
契約にあたって入居者に用意してもらう書類は、入居申込書の記載内容を証明するものということになります。
具体的には、下記のような書類を用意・提出してもらいます。
・住民票
・収入証明書(源泉徴収票か納税証明書)
・本人確認書類(運転免許証、学生証のコピーなど)
・保証人の承諾書(賃貸借契約書と兼ねる場合もあります)
・保証人の印鑑証明書
・場合によっては、保証人の収入証明書
10.賃貸借契約書上の確認ポイント
(1) 契約当事者の契約締結権限
賃貸借契約の締結にあたっては、契約当事者が契約締結権限を有しているかどうか確認する必要があります。
契約当事者が未成年などの制限能力者である場合、民法上では契約そのものは有効となりますが、制限能力者本人や親権者・後見人などから後で契約を取り消されることもあります。
ですから、事前に親権者・後見人などの同意や連帯保証を得ておくべきでしょう。
(2) 入居者の続柄・人数など
契約当事者の他に同居人がいる場合は、その続柄、同居人数を把握しておく必要があります。
当事者および同居人以外の第三者が入居した場合には、無断転貸として争うことがあるためです。
貸室の転貸については、「家主の承諾なく行ってはならない」と規定されている賃貸借契約書がほとんどですが、念のため契約書の条項を確認しましょう。
(3) 家賃の支払について
家賃の支払時期に関しては、民法上「毎月末にその月の家賃を持参して支払う」と規定されています。
しかしながら、不動産会社の管理実務的には「翌月分前払い」のケースがほとんどであり、法律上も問題ありません。
また、契約締結時や解約時に1ヵ月未満の日割家賃に端数が生じる場合があります。
このような場合の計算方法について、「日割計算で支払う」などの文言を入れるとともに、計算根拠も明示しておいた方がよいでしょう。
さらに、土地や建物の価格変動、公租公課(税金等)の増減、近隣家賃との比較により現行の契約家賃(賃料)が不相当となったときは、将来に向かって増減することができる旨の条項が加えられることも一般的となっています。
ただし、家賃を一定期間増額しない特約をした場合や賃料改定の特約のある定期借家などの場合は、特約が優先されます。
いずれにしても、賃貸借契約書の条項をあらかじめ確認しておくと良いでしょう。
(4) 修繕費用の負担について
賃貸借契約において、修繕費用の負担区分に関するトラブルが最も多いと言えます。
できれば、賃貸借契約書の一部として別表を用意し、貸室内の各設備の修繕について家主と借主(入居者)の負担区分を細かく項目立てて定めておくとよいでしょう。
裁判例では、家主の修繕義務の免除が認められているのは小修繕であり、かつ、その修繕内容が明確にされている場合に限られているからです。
こうした契約書の内容は、媒介(管理)を委託している不動産会社と相談して決めた方がよいでしょう。
11.更新手続きを行う
普通借家契約の場合、契約期間が満了になると更新手続きを行うことになります。
更新手続きを行わなくとも賃貸借契約を継続することはできますが(これを「自動更新」という)、その場合、期間の定めのない契約になります。
また、自動更新を何度か繰り返しているうちに無断転貸されていたり、連帯保証人が亡くなっていたりというケースもあるので注意が必要です。
基本的には、契約当事者(入居者)及び連帯保証人双方との合意に基づき、更新の手続きを行っておいた方がよいでしょう。
なお、更新時に家賃を値上げするには、「土地建物に対する公租公課の変動」・「土地建物の価格変動や経済事情の変動」・「近隣建物と比較して家賃が不相応になった場合」などの明確な根拠が必要です。
これを十分に調査、説明することは専門的な業務になりますから、なるべく媒介(管理)を委託している不動産会社にお願いしましょう。
12.退去手続きを行う
入居者から解約の連絡を受けたら、退去の手続きを行います。
解約予告期間と解約に伴う日割家賃など解約条件を説明するとともに、引越し日が確定したら正式な解約の申し入れを文書で行うよう伝えます。
移転先は、郵便物が配達可能な住所か確認します。
引越しの都合で電話番号が確定していない場合は、確定後、速やかに知らせてくれるように依頼します。
居室内に入居者が設置したエアコンの取り外しや引越しの際に出るゴミの処理方法、引越し期日までに各種公共料金を精算してもらうことなども説明します。
そして、預かっている敷金の額を確認。未払い家賃や原状回復費用との相殺を検討します。
退去時の原状回復はトラブルとなることが非常に多い問題です。この業務は不動産会社に依頼し、入居者との立会いを行ってもらうことが望ましいでしょう。
13.新しい入居者を募集する
新たな入居者を募集するに当たっての希望条件や、空室修繕工事の内容を検討します。
場合によっては、再商品化するためのリフォームを行い、競争力を高めることも必要となります。